一、そして彼女はにやりと笑った。

 

 面白いことになった。

 歩調にあわせて揺れる青年の頭の上で、イルシア、いや、アロイは獣の顔のままほくそ笑む。
 五日ほど前だったか。思いつきで行った実験がこんな事態を引き起こしたようだ。
 小さな紙切れにアロイが施したのは、転移魔術。いわゆるテレポートだ。
 まずはアロイが紙切れをでき得る限り遠い場所へ移動させる。さらに紙切れには自身の魔力を極限まで練りこんでおり、紙切れに触れた者は自動的にアロイのそばへ転移するようにしておいた。
 自分の力を測るとか、そういうことにはもうこだわっていない。だからそれは、本当に思いつき。どこまでできるのかという、ちょっとした冒険心。
 ニドラ大陸の外へは楽に飛ばせる確信があった。それでもせいぜい、世界の裏側、ミリガメナ諸島。もしくは神々の楽園シュリオマージュ辺りだろうと。
 それが、どうしたことか。
 いざ現れたこの青年の言動と纏う空気から考えると、彼は異世界からやってきたことになる。
 異世界。
 別段おかしな単語ではない。ニドラ大陸の魔術士たちの間では、かなり古い時代から異世界研究が認められている。天体の幾つかは別世界だと考えられているほどだ。実際に行って帰ってきた者もいたという話だが、それが真実なのか確かめる術はない。
 アロイ自身も異世界論肯定派の人間(?)だ。自分たちのいる場所にしか人間や魔術が存在しないなどと言い切る方が傲慢だろう。そちらの方が根拠を示すのが難しいはずだ。世の中に人が知ることも行き着くこともできない領域があるのは当然のことだろう。
 それにしても、我ながらとんでもない力だ。
 まあいい。異世界に行くのも、異世界の人間を呼び寄せるのも、どちらも大差ない、稀有な体験だ。思う存分楽しんでやろうではないか。
 で。
 先ほど到着した街に弟子他二名を残し、アロイは少し離れた森へ涼みに来た。人ごみは嫌いだし、この身体では騒ぎの種になりかねない。
 そこで出くわしたこの青年。
 黒い髪に黒い眼。長身に精悍な顔立ち。背中と腰に型の違う剣が、合わせて四本。体型、立ち居振る舞い、雰囲気などから察するに、かなり腕の立つ剣士のようだ。
 自分が異世界にいることに気づき、それを冷静に受け入れているあたり肝が据わっているし、何とかできるという自信もあるらしい。まだ歳は二十にいっていないようだが、若い割りに落ち着いている。恐らく、修羅場も含め多くを経験してきた身の上なのだろう。
 しかし、何よりアロイの興味を惹いたのは別のことだ。
 ジオと名乗ったこの青年からは、魔力をまったく感じなかった。最初は結界術か封印術、あるいは呪詛の類をかけられて魔力を押さえ込まれているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 魔力が存在しない世界というのも考えられるが、それも違うようだ。先天的にそういう体質なのだろう。
 彼の世界ではどうだったか知らないが、魔力を持たない人間というのはここでは珍しく異質な存在で、アロイにとって興味深い対象だ。
 異世界にも異世界の魔術にも、一魔術士として当然感心がある。それにこの青年にも、彼の仲間にも。未知のものは、何だって面白い。彼らに付き合えばしばらく楽しめるだろうし、自分にも弟子にもいい刺激になる。
 まあ、そのうちアロイの力で彼らを元の世界に戻すことになるだろう。それがアロイの責任でもあるし、彼らにはそれしか取る道はない。その間は退屈せずに済みそうだ。
 それに。
 アロイは黄金の双眸を不穏に細めて、ジオの頭上で口角を上げた。人間の姿だったなら、にやり、という感じの笑い。
私の身体を馴れ馴れしく撫で回した罪は重いぞ。
 人に触られるのは大嫌いだ。特に男には。一人の例外を除いて。
 ただでは済まさない。先ほどのビンタで終わりと思ったら大間違いだ。さて、どうやって報復しようか。

 そうとも、しばらく退屈せずに済みそうだ。

 

 

 

 

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