3.奥様にご用心


「びっくりした。似合ってんじゃん」
「……勘弁してくれよ」
 翌日になった。前日、仕事の交渉に赴いたメリッサとジオは、その場で、即、採用が決まった。派手な魔術を披露してくれる魔術師が欲しかったのと、それ以上に見栄えのいいギャルソンが欲しかった、と雇用主から素直にカミングアウトされた。理由を聞かされた瞬間、ジオの顔が引きつりそうになったのは言うまでもない。
 今、ジオが着ているのは白シャツと黒のベストに、ベストと同じ色の細身のスラックスという、ギャルソンの王道スタイルだ。一日限りの臨時スタッフだが、きちんとした格好をしてもらわないと困るとのことで、至急自費で買わされたのだった。元々ジオは黒を着ることが多いが、シャツの白が入ることによって清涼な印象も新たにプラスされた。無駄な色がない。白と黒だけの、案外フォーマルな服が似合うものだと、メリッサは素直に感心してしまった。本人はというと、心外だと言いたげに眉間にしわを寄せていたが。
 メリッサはというと……。
「私はこの服苦手なんだけどね」
 肩も凝るし窮屈だし、とぶつぶつ文句を言う。
 メリッサは旅の中で、服を3組持ち合わせている。男物の古着が2組に、もう一つは正装だ。
 ひざ丈の、髪と同系色のキュロット。白いワイシャツの襟には、同じ色の糸で花蔦の刺繍が施されている。深緑のベスト。シャツにはネクタイではなくレースのリボンがあしらわれている。その上からベストよりも薄い色のジャケットを着る。一昔前の貴族の子息が着るような恰好は、彼女の妹の趣味だ。
「……お前、何で今日は身分を明かすんだよ」
 正装姿で、印籠のような効果を発揮する懐中時計をもてあそぶメリッサに問い質す。ちょうど一年前、彼女が母国で首に下げた懐中時計を賜った時と同じ格好だった。妹が趣味全開で勝手に用意したと言っていたが、それ以来メリッサは、公の場ではなるべくこの正装をするようにしている。何時も着ている男物の古着よりはそれっぽいと思っているのだ。
「昨日のニーチェの発言を思い出してさ。それに、こういった余興の時、無名の魔術師だったら可哀想だろ?」
 世の中の大半の魔術師は無名なのではなかろうかとジオは突っ込みたくなった。
それにしても憂鬱だ。重いため息しか出てこない。これからの仕事もだが、それと同じぐらいかそれ以上に、何時も持ち歩いているものがないのも、憂鬱の種だった。
 昨日、雇用主と顔を合わせた際、その物騒なものを持ってきてくれるなと言われた。物騒なもの。それは彼が常に身に着けている、4本の剣だ。自分の分身どころか、もはや体の一部であり、持っていないとどこか落ち着かない。利き手が空虚さを感じている。
 ――女性相手に給仕をするのは、綺麗に人を斬るよりも難しい。
「まぁ、頑張れジオ。私は応援してるからさ。たった数時間の辛抱だ」
 胃を重くしているジオに向かって、相棒の少女が、思いっきり背中を叩く。そして、呑気に気休めを言うのだった。

 *

 結婚式場の一部を借りたらしく、それなりの広さと豪華さがある。奥の方にはちょっとした開けた場所があって、そこがメリッサの今日の舞台になるのかもしれないとジオは推測する。天井からはクリスタルのシャンデリアが幾つも吊るされている。薄いシャンパングラスに入ったスパークリングワインは匂いからして一級品だ。レバーパテに野菜のテリーヌ。鯛をポワレにして焼いたものと、鮭のカルパッチョ。4種類以上のチーズを使ったキッシュ。酒飲みの血が騒ぎ思わず飲みたくなるが、仕事中なのでそういうわけにもいかない。
 たった数時間と言われたが、苦痛だ。クリスタル製の壁時計を見ると、まだ始まってから30分しか経っていないという驚愕の事実しか確認出来なかった。
 平均年齢は三十五以上といったところか。目だって若くもないが年老いてもいない年齢。伴侶の地位と財力があって、今の人生に余裕と時間があって、女性としても成熟してきた――
 要するに、ジオが苦手な部類の人間である。
 それなりに、否、相当に着飾った女性たちが、旦那の仕事やら年収やらどこのブランドのバックを買った等の別の世界の話を興じている。BGMとして流していても会話の内容はそれなりに分かってしまう。聞く限りでは彼女たちはやたらと鞄を買いたがって、高級な銘柄に弱く、着飾ることに至上の喜びを感じる生き物のようだ。こいつら全員成金か。そんな金があったら、関わるのは御免だが俺にくれ、と思う。
 それでも無心に立ち回り、グラスを渡したり、空になったものを片付けているうちに自然と昼は過ぎていった。たまに、有象無象の中にある誰かの視線を感じたが、無視して動き続ける。給仕の仕事は初めてだが、スムーズにこなしていた。剣の反復練習みたいに、単純にこなしていけばいいのだ。
 ――メリッサの出番が近づいてきていた頃。
「あら、あなた」
 一人の女性が近づいてきた。 碧眼で、綺麗な金髪を緩やかに巻いている。大きく胸元が開いた白いシフォンのワイシャツに、マーメイド型の明るい桃色のスカートを穿いている。三十手前の、その年齢より若干若く見える外見。化粧はやや薄め。胸元に、香水が入った小さな小瓶のネックレスを下げている。顔立ちは大人しめで、それなりに綺麗だ。
 要するに、ジオの苦手な部類の人間である。
「……どうぞ」
 グラスの乗ったトレーを差し出すが、女性は手に持とうとしない。仕方がないので手渡しすると、女性はそこで淡いピンク色のルージュが引かれた唇を弧に描いた。
「ありがとう。いただくわ」
 ラインストーンや真珠で派手にデコレーションされた爪が目立つ。彼女がジオのトレーからシャンパンを取るのは5回目だ。給仕が飲み物を持って立ち回っているのだから、客が近づいてくるのは普通のことだが、この婦人とは遭遇率が高い気がする。
「あなた、私の従兄にそっくりね。今すこし、ゆっくりお話しできないかしら」
「……仕事中ですので」
「まぁそんな。つれないこと仰らないで」
 女性の手が、空きになったジオの左手を捕まえる。顔が引きつりそうになった。露骨、まではいかないが、若干うんざりした顔で夫人を見ると、何故か彼女は目を細めて微笑を返してきた。ああ、時折感じていた視線の正体は彼女だったのかとそこで悟る。
何も失ったことのない、幸福な柔らかい手。女性らしい手。命の危険にさらされたことなんて一度もないだろう。
 こっちは仕事中でそんな義理なんか全くないんだが、と言いたくなる。
 ふっと。
 視界が闇に包まれる。何の唐突もなく訪れた闇に、会場はにわかに騒ぎ立った。
 その隙にさっと手を引いて、場を離れた。もともと夜目が効くジオは、このぐらいの暗闇には動じない。大体周りに何があって、人がどれぐらいいるのかが手に取るように分かる。人と人の間を縫って、会場の端の、飲食物を準備しているスタッフスペースに向かう。
 闇に溶けたシャンデリアのクリスタルが、光を持って浮かび上がった。ひとつのものは赤。ひとつのものは紫。青。黄。橙。緑。紺。白。そして氷のようなクリスタルオーロラ。全部で9個のシャンデリアが全て別の色に染まっていた。
 天井から、ひときわ大きいそれが極彩色をまとって降りてくる。他のものより一回り大きいシャンデリアには、一人の少女が足を組んで偉そうに腰を落としている。少女でも、人ひとりが体重を乗せたら重みで落ちてきそうなものだが、華奢なシャンデリアは崩れ落ちる予兆を見せない。
 シャンデリアの少女がぱちんと指を鳴らす。するとそれぞれのシャンデリアから――
 それぞれの色を纏った鳥が飛びだした。白鳥。カナリア。ブルーバード。極彩色のシャンデリアからは、極東ハザクラ列島の東の先の海を越え、遠く離れた華国の鳳凰。ひときわ大きいのが、大陸の中央、カルギア国を象徴する炎を纏った赤い鳥。
歓声が上がった。現実にいながらもきわめて幻想的なもの、もしくは神話上でしか存在しないものが暗闇の中を鮮やかに旋回する様に、観客は目を奪われる。
 再び、シャンデリアの少女が音を鳴らす。今度は手と手を合わせた乾いた音。
 音と同時に、二つの事象が起こる。一つは、シャンデリアが消えた。そこから生まれたと鳥も、座っていた少女も全て。元々そんなものなど行われていないという風に元通り。もう一つは、開けた舞台の上に光がともった。
 ジオはその舞台に目を向ける。
 舞台上で、シャンデリアに座っていた――正装した彼の相棒の少女が、道化師のように大仰に礼をする。司会が口上を述べる。
――曰く、“魔術師の国”カルギア王国出身、15歳にして王国認定第一級紋章魔術師、六つの星を巡る火の鳥の再来――
 メリッサ・スティングス。
「……流石だ、相棒」
 司会の口上が終わる頃、格好悪くジオが呟いた。それは、彼女の魔術の技ではなく、タイミングのいい時にタイミングよく魔術を使ってくれたことに対してだった。


 *


 マララッカ大陸のちょうど中央、小国カルギアには「泣いた赤子が火の玉投げる」という独特の言葉がある。火は、カルギアでは魔術の象徴で、国に魔術を齎した火の鳥から由来が来ている。赤子でも魔術が行える、行えてしまえるという国であり、そういった教育が成り立っている国である、と意味する言葉だ。初等教育の段階から教育課程では必ず「魔術」の授業があり、人口の半分が魔術に関する学士を持っている。
 街角で饅頭を売っているおばちゃんがいて、その饅頭が、おばちゃんが自作した高度な魔術機器によって製造されている、なんてことがざらにあったりするのだ。
 現在マララッカ大陸の中央地帯には、4つの国がある。カルギアは、軍事国家エーレ国、大陸経済の中心地シャトーヴァルタン帝国、森と歴史ある古城のノワール国の、3つの大国に囲まれるように隣接している。この3つの国が小国の領土を侵犯できたことは、一度もない。それどころか、隣国がどうなろうと、建国以来、カルギア国のかたちはそのままなのだ。
 ひとたび戦争が起これば、決してみずからは動かない。その代り、立ち向かってきた敵がいたら、その圧倒的な技術力で自国を守り抜き、相手を徹底的に叩き潰す。
 あらゆる街角に魔術師が存在する国。それが魔術大国、別名「大陸の秘蔵庫」と呼ばれるカルギア国だ。
その中でも、カルギア王家に認定され、国の名前を背負える魔術師は両手で数えれば事足りる。
歴史に残るような功績を建てたもの、魔術の発展に尽力を尽くしたもの、最高の実力を持つと認定されたものに、国家の紋章――六つの星を巡る火の鳥――が与えられる。
 メリッサ・スティングスは、そんな王国全ての魔術師の頂に立つ実力を持つ一人だ。


 パーティは盛況で幕を閉じた。前半はそれぞれの身のうちで話が盛り上がり、その半分は目の前で行われた魔術と、それを披露した少女のことで会話が弾んだ。今は料理や会場の片付けが行われている。
「15歳ですって? あなた若いのに凄いのね」
「さっきの魔術はどういった仕組みなのかしら?」
「本当によかったわ。ありがとう。とっても楽しかった」
 パーティ終了後、メリッサは中々退散しないマダム3人と談笑している。殆ど食器がさげられた中、少女は遅れて食事を摂っている。食べ残しが集まったテーブルだが、残り物に福があるというか、意外な豪華さを見せていた。口いっぱいに食べ物を詰めて、行儀悪く咀嚼している。
「楽しんでもらったなら私も嬉しいよ。披露した甲斐があったからさ」
 食べながらの台詞だったからか、一人の女性からゆっくり食べなさいと優しく言われる。
 意外なことにメリッサは年配の女性受けがいい。自信満々に見えて、妙に人懐っこく話をかけてくる。また女くささがなく、小動物のような愛嬌がある。加えて、さばさばとした態度が不思議と女性から気に入られるのかもしれない。
「あー、それから私も聞きたいことがあるんだ。ちょっといいかな?」
「勿論、いいわよ」
「この辺りは人魚伝説が有名だろ? 人魚の鱗って高価なもんじゃん。それを持ってる人とか、魔術として研究してる人とか、どの辺にあるかとか知らない? 今度の論文で使いたいんだ」
「論文? 頑張るわねぇ」
「出身大学の冊子になんか寄稿しないといけないんだ」
 勉強熱心ねぇと女性たちは笑う。勉強熱心、職業病というよりも、一種の病気だとメリッサは思う。新しい技術。新しい魔術。魔力というものの可能性。魔術師は、そういったものを考えていないと、落ち着かない生き物なのだ。
「もしかしたら、スザンヌ・ハミールさんが知っているのではないかしら?」
「ああ、あの人ねぇ」
 一人の女性が、心当たりのある人物を挙げる。あの人ねぇ、と、それに反応した別の女性の口元は、面白がっているような小馬鹿にしているような、そんなニュアンスが微妙に見え隠れしている。とりあえずこの3人とは、特に親しいわけではないようだ。同じ富裕層で、上流階級の人間で。社交辞令で一言二言会話はするけれど、表面から突っ込んだ話はしない、というところか。
「誰、それ?」
 外国人で、魔術を行うだけのために即日で雇われたメリッサに、名前の挙がった人物が何者かを知るわけがない。素直に何者かを問うてみた。
「今日会場にいた、デンバー大学のハミール教授の奥様よ。私達より10歳は若いわね。ただ、ねぇ」
「最近彼女は、よくない噂を聞くのよ。大学生と逃げようとしたとか、社長令息の誰かといい関係になったとか。真夜中のクラブで若い男をやり込めようとしたとか」
「あら今日だって、彼女、給仕の一人を狙っていたじゃない」
「そんなもの、いつ見たの」
「メリッサちゃんの魔術が始まる前よ。黒髪の、そう。背の高い、かなりの美男子だったわよね。私もあと20歳若かったら、彼みたいな青年と恋に落ちていたかもしれないわね」
「ああ、確かに彼、恰好よかったわ」
「あなたたち、よく見てるわねぇ」
 彼女たちの口は止まらない。話を振ったのは自分とはいえ、ここまであけすけに話すものなのかとメリッサは少し驚く。もしかすると他人の下世話な噂は、女性にとって、あって嬉しいビタミン剤のようなものなのかもしれない。愉しめる上に自分に対して害を及ぼすことはない。ただ、メリッサは、自分のような10代の未熟な面が多い存在の前で披露するような話でもないだろう、と他人事のように考えた。
だが。
その大学教授夫人が誰と不倫しようが興味の欠片もないが、夫人が狙ったという給仕の話は気になった。
「へえ……。その背の高い黒髪の奴って、もしかして左耳にピアスしてなかった?」
 メリッサが見たところ、この会場にいた黒髪の男性は3人。だが一人は背が低く、一人は50代ぐらいの壮年の紳士だった。そしてもう一人は――
「私が見ていたのは右側からだったから、そこまでは。ただ……早く逃げ出したそうな顔していたわね。彼、純情なのかもしれないわねぇ。お気の毒に」
「あら、あの給仕だったら、確かに左耳に三つつけていたわね。私ったら、つい、そっちの人かと思ってしまったわ」
 メリッサは相槌を打ちながら、年を重ねた女性にとって、あの相棒は純情に映るのかと驚きの感想を抱いた。純情、というより、彼の場合はただ単に色気のある年上の女性が苦手なだけだと思うのだが、それも年配の女性たちにとっては女に不慣れな初初しい反応にしか見えないのだろう。そっちの人と誤解されたのは、まあ何時もの事だから何も感想は抱かないが。……だから右にもつけろと言うのに。
 スザンヌ・ハミール。メリッサはとりあえず、その名前を刻みこんだ。
「じゃあさ、そのハミール教授とその奥様について、詳しく話してくれると嬉しいな」
 女性たちは喜んでと言わんばかりに、手持ちのカードを披露し始めた。

 *

 苦行の時間が終わった。
黙々とテーブルの空の食器を下げ、慣れない皿洗いを完了したところでお役御免になった。雇い主から渡された封筒はずっしりと重く、除くと黄金色のコインが入口ぎりぎりまで入っていた。これで今日は、いい肴で酒がたらふく飲める。憂鬱な気分で一日過ごしたのだから、それぐらいは許してもらえるだろう。
 メリッサと数時間ぶりに顔を合わせたのは、仕事が完全に終わった後。控室で不味い茶を飲んで一休みしていたところだった。
「あー疲れた」
 戻ってくるなり、メリッサはぐるりと首を回して、窮屈だと言ったベストとジャケットを脱いだ。やや解放された格好になったところで、落ち着いたように息を吐く。
「遅かったな」
「いや、御婦人がたと話してきてさ。いい情報でもないかと思って」
「……気付いちゃいたが、そっちが本命だったのか」
 さも当たり前と言わんばかりにメリッサがにやりと笑う。「人魚の鱗って、魔術の道具になるだけじゃなくて、嗜好品としてこの辺りじゃ有名だしね。こんな成金パーティだから、持ってるやつとか、研究してるやつとかさぐれないかなと思って。したらビンゴだった。……なに、何で笑ってんの?」
「いや」ジオの目元がにやにやと笑っている。「その成金パーティって発言は、別に、普通だな。面白くない」
「……私には他に表現のしようがないんだよ」
 活字中毒気味のお前と一緒にするな、と言いたい。さっきまでげっそりと疲れ切った顔をしていたとは思えない。こういう、何でもないところで、他人をからかうのが好きな青年でもあった。
「それで、こんなところに来たんだ。成果のひとつぐらいあったのか?」
 その時に、控えめにドアがノックされた。メリッサがどうぞと答える。
「あー、ジオ君。まだいてくれたか。よかった」
 雇い主がひょっこりと、顔だけ出した。この成金パーティの主催者の旦那で、会場準備やら司会者を呼んだりなどの雑務をやらされていた人だ。こういった顔は、優しげに見えると言えばいいのか、優柔不断そうに見えると言えばいいのか。彼の職種は不明だが、平日の昼間からこんなパーティを行う余裕があるのだから、それなりの地位や財産は持っているのだろう。
「これ、ある人に君に渡してくれって言われてさ」
「……何だよこれ」
「さあ。私には分からないな。じゃ、渡したからよろしく」
 渡すものだけ渡して、雇い主は足早に去っていった。扉の音がばたんと強く響く。どことなくぎこちない表情に、用事だけ済ませたらさっさと消えたそぶりから、彼にとってあまり関わりたくない事柄なのだろうということはうかがえる。
 手に残ったのは白い細身の封筒と、それよりもかなり重みの感じる封筒。
「なんだこれ」
 メリッサが、顎で開けるように促す。私も気になるからはやく開けてみろ、とでも言いたいようだった。
 まず重いほうの封筒を開ける。中に詰まっていたのはマララッカ大陸共通のマルト金貨だった。さっき雇い主から貰ったのと、同じ金貨。容量は同じぐらいか、もしかすると今渡された方が若干多いのかもしれない。
 謎なのは、誰が何故、こんな大金を渡してきたかだ。
「こっちに何か書いてあるかもよ」
 もう一方の、蔦柄にほりが入れられた白い封筒は、封蝋で封がされている。びりっと乱暴に封を切ると、現れたのは上品な紙の一筆箋だった。


『今夜9時、エルトンホテルの最上階でお待ちしております』


 その便箋の性質にふさわしく、流れるような綺麗な文字で一行だけ記されている。
 差出人の名前はない。
 二人は目を丸くして顔を合わせた。




(つづく)



[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析